じつかいせきのTRPG雑記

『新クトゥルフ神話 TRPG 』を初心者に勧めたい 4 つの理由と『新クトゥルフ神話 TRPG 』に初心者が安易に手を出してはいけない 4 つの理由

ご意見ご感想や追記してほしい事などありましたらリプなりIssueなり頂ければ参考にいたします。

『新クトゥルフ神話 TRPG 』を初心者に進めたい 4 つの理由

キャラクターが作成しやすく、プレイヤーにとってルールが簡便である

正直な話、世の中の TRPG でまず壁になるのはキャラクター作成だろう。 ファンタジー然り、異能物しかり、最初に向き合わなければいけないのは大量の「スキル」(又はそれに相当するもの)であり、次にアイテムである。

大半の TRPG においてプレイヤーがやる事といえば「情報収集」と「戦闘」から成り立っており、そのどちらに特化するか、また戦闘であればアタッカーなのかサポーターなのかを選択し、用意された大量のスキルやアイテムの中から選んだ役割に有利になるものを、その効果が書かれた豆粒みたいなテキストを目を皿の様にして読みながらクラスやジョブやスキルやアイテムを選択する事になる。

選択したスキルやアイテムによってステータスも変化してくるようになり、やら攻撃力がこうなって装甲がこのぐらいあって割り込みで使えるスキルなんかもあって最終的に 素の状態で 振れるダイスと固定値がこうなってという風にチマチマとステータスを計算した上でやっとキャラクターができあがり、いざ情報収集や戦闘になったらあらゆる方向からバフやデバフ(キャラクターに付く有利な効果や不利な効果)が飛んできていちいち技能判定の値やダメージの値を再計算させられる。もちろん「ゲーム」を行う上での醍醐味の一つであるが、これを手計算でやらされるのをストレスと言わず何と言うのか。

『クトゥルフ神話 TRPG』のキャラクター作成は非常に簡便である。技能表だけを見ると選択肢が大量にあるように見えるが、そこに豆粒のような効果テキストは存在しない。《機械修理》と言われればそのままメカトロニクスだし、《鍵開け》と言われればそのままピッキング技能である。とりあえず探索者四大技能 (《目星》《図書館》《聞き耳》《精神分析》) にある程度振っておけばそれなりに役に立てるし、 KP に少しでも良心があれば「推奨技能」というものまで呈示してくれる。技能を使う時も振ったポイントがそのまま成功確率になるし、戦闘ルールも(「新」になって)だいぶ簡便になったのでプレイヤーが考える事はあまり多くない。 TRPG の中で『新クトゥルフ神話 TRPG』はかなり簡便なルールと言える。

舞台が(一応)現実世界である

最初に言っておくが「目が覚めたら謎空間にいました」というシナリオは 論外 である。アレらは普通の(「クラシカルな」と言った方がいいかもしれないが)シナリオに飽きた人間がネタ枠或いは幅出しとしてやるシナリオであり、『新クトゥルフ神話 TRPG』においては飛び道具的なシナリオである事を明記しておかねばならない。

もとい、特に日本人が『新クトゥルフ神話 TRPG』をプレイする場合は現代日本を舞台にする事が多いだろう。なんとも親しみのある現代日本だ。例えばこれがファンタジー物の TRPG なんてやった日にはまず膨大な世界設定資料を頭に叩きこまなければいけない。アリアンロッドの様な JRPG 風な物ならある程度の共通認識はあると思うが最低限そこに存在する神話とそれを元にした倫理観は把握しておかないとロールプレイもままならないだろう。

そういう意味で「舞台が現代日本」というのはプレイヤーにとってとても馴染みがある舞台である。なんてったって「普通の」暮しをすればいい。そこにちょっとした事件が舞い込むだけである。余計な設定を頭に叩きこむ必要は無い。

プレイ人口が多い

『新クトゥルフ神話 TRPG』は 幸か不幸か かなりの流行りを見せている。おそらくあなたが何のツテも無く TRPG を体験したいと思った時に一番動画のようなコンテンツで予習ができ Twitter 等で一番募集に巡り会えそうなのが『新クトゥルフ神話 TRPG』の卓だろう。是非適切なコミュニティで同志を探してほしい。

シナリオが豊富

先も述べたように『新クトゥルフ神話 TRPG』はかなりの流行りを見せている。当然シナリオを書いている人間も多数存在し、同人シナリオやインターネットで公開されているシナリオを含めれば豊富なシナリオが存在する。存在は、する。


『新クトゥルフ神話 TRPG 』に初心者が安易に手を出してはいけない 4 つの理由

キャラクターが作成しやすく、プレイヤーにとってルールが簡便である

これには「プレイヤーにとっては」という但し書きがつく。そしてもしあなたが TRPG を初めてプレイするという状況で『新クトゥルフ神話 TRPG』を誰かに回して貰う場合、 絶対に KP に尋ねておかなければいけない文言がある。

「(新)クトゥルフ神話 TRPG 以外のシステムの GM をやった事があるか。」だ。

確かにゲームをプレイする上でプレイヤーが考える事はあまり多くない。が『新クトゥルフ神話 TRPG』には昨今の TRPG に必ずと言っていいほど付与されている「セッションを円滑に進めるルール」 1 が皆無である。『クトゥルフ神話 TRPG』の系統の歴史はあなたが想像しているよりかなり古く、ゲームそのものへのサポートが貧弱だった時代の系譜を脈々と受け継いでいる。

翻ってこれは「KP の負担がかなり大きい」という事であり、その処理を円滑にできる技量というのはクトゥルフ神話 TRPG 系列の KP をやっているだけでは少々身につけるのが難しい。はっきりと言わせて貰うが『クトゥルフ神話 TRPG』系列の KP だけやってゲームマスターができる気になっている人間は 雰囲気でしか GM をやっていない 事が多く、少なくとも筆者はセッションの進行がまともにできている例を見た事が無い。

また、技能判定にも落とし穴がある。例えば《鍵開け》と言われてどの程度の鍵が開けられるのか。金庫等はわかりやすいがピンシリンダー錠を開けるのとディンプル錠を開けるのはどのくらい難易度が違うのか。適切な道具があるのと無いのとではどのくらい難易度が違うのか、コンピューターで制御されている電子ロックを開けるのに《鍵開け》は本当に必要なのか 2 。これらの問いにすぐに答えられる KP は希少であり、『新クトゥルフ神話 TRPG』の技能は大体こんな感じである。一応難易度の目安はちゃんとルールブックに書いてあるが、現実世界の全てを網羅している訳ではない。だが大切な事なので2回書く。 ルールブックに書いてある 。なぜ強調したのかはあえて触れないでおこう。

つまるところ、「新クトゥルフ神話 TRPG の技能は 現実世界で使う技能なだけに KP には膨大なリアル知識が求められる 」のである。 KP はこれらの知識をある程度網羅し、適切な場面で適切な技能を触らせる必要があるが正直な話これは少々難易度の高い話であり、結果「なぜこの技能を触らせてくれないんだ」などという言い合いが起こる結果になる。 KP が裏付けのある理由を説明してくれれば良いがそんな知識の無い KP は大体「だってシナリオにそう書いてあるんだもん」の一点張りしかせず、セッションにフラストレーションが貯まる結果となる事の方が多い。

そんな事になるぐらいだったら「腕力」とか「敏捷」とかそんな感じに最初から抽象化されたパラメータを使って、読まなければいけないテキストは多いが「できる事が明確に書いてある」スキルというものを多少なりとも目を通してみるのも……うん……つらいんだよなぁあれ……

舞台が(一応)現実世界である

「現代日本」という背景を 安易に共有できると思わない方が良い

日本でなくとも隣の家に行けば全く違う文化が存在しているのが現代である。沖縄に行けば米軍の影響で相当な割合でアメリカ文化が輸入されているし、九州では前時代的な男尊女卑の文化がしつこく根付いているし、大坂ドヤ街の治安はそんじょそこらの人間には想像できない程度だし、東京の隣人に対する希薄さは関東6県の人間にすら想像に難く、シロガネーゼと呼ばれるような人間はなかなかどうして選民意識が深く、北陸の限界集落のムラ文化というものは伝聞以上に閉鎖的で、北海道の一部地域にはアイヌの伝統が根強く残っている。

話を大袈裟にするために全国規模の話をしたが、つまるところ我々にとって身近であるが故に「現代日本」と言われて想像する その「現代日本」は生れや育ちで何もかも違う という事である。タチの悪いことにみんながみんなそれぞれ 自分にとっての「常識」 を当たり前のように持っている。こんなもの衝突して当たり前である。

だったらファンタジー世界のような「誰も知らない世界」の設定を鵜呑みにした方がまだマシというものである。最初から創作なのだから解釈違いが起こってもそんなもの当たり前としてうけとれる土俵が存在する。

プレイ人口が多い

人口が多いのは結構な事であるが特にクトゥルフ神話 TRPG のプレイヤーは「動画勢」というものが跳梁跋扈しており、フェのつくどこぞの人間がフィクションと現実の区別がついていないが如く彼らは 動画と実卓の区別がついていない

もちろんあなたがそんな過激な動画を見て自分もそういうプレイがしたいというのならそれはそれでいい。ただしそれはそれとしてもうひとつ注意しなければいけない集団が存在する。

それが俗に言う「エモシ 3 勢」だったり「うちよそ 4 勢」と呼ばれる物で、彼らはゲームをする事よりも 作成したキャラクターがどれだけ鮮烈な葛藤をするか に重きを置いた集団であり、それが良い方向ならまだいいのだが彼らの中に 「エモ」と「グロ」と履き違えている人種が存在する 事に注意されたい。彼らに巻き込まれたが最後、クトゥルフ神話 TRPG がホラーを基調としているのをいい事に延々とトロッコ問題 5 のような選択を迫られ死屍累々になったキャラクターを目の前にして「TRPG ってこんなに辛い思いをしなければいけないのか」と卓を離れていった人間は後を断たない。

そんな集団に当たっても勘違いをしないでほしい。彼らは特殊性癖なだけなのだ。「TRPG」がそういう物だとはお願いだから勘違いしないでほしい。

シナリオが豊富

今迄の話と深く関連するのだが、なにぶん「そういう」層が大量にいるだけあって巷に溢れているシナリオというのはいわゆる「エモシ」であったり後味の悪いシナリオだったり、はては KP の脳内当てみたいな理不尽なナゾがあったりと プレイヤー体験のためのTRPGシナリオアンチパターン に書いてあるような要素が大量に詰めこまれており、玉石混合どころかオーソドックスなシナリオを見付けるのは江戸川で砂金を探すぐらい難しい。

本来ならルールブックに載っているシナリオを、と言いたいところなのだが残念ながらルールブックについている『悪霊の家』は舞台が昔のアメリカなのでちょっと手が出しづらいところがある。 (本来ならあのぐらいのシナリオ程度、日本舞台にコンバートできなければいけないのだがはたしてそれができる KP がどのくらいいるかという話である。)

サプリメントである『クトゥルフ2020』なんかには日本を舞台にしたシナリオが収録されている。まずはそのあたりから回して貰うといいだろう。個人的には『七つの怪談』収録のシナリオも是非やってみてほしい。旧版向けのシナリオであるが、ちゃんとルールブックを持っている KP ならコンバートは簡単にできる。 ルールブックを持っていれば 。(そもそもルールブックを持っていない人間がサプリを買うかという話もあるが。)

というかどのシステムでもそうなのだが、初めてそのシステムをやるという人間に対してサンプルシナリオ(あるいは公式シナリオ)でないシナリオを回すと言われたらその KP(GM) の事を少し疑った目で見た方がいい。 少なくとも建前上は公式シナリオというのは「こういう遊びかたをしてほしい」という出版社側の意向があるはずである。サプリメントだと少し捻ったシナリオも出てくるが、だいたいはそのシステムにおいての「オーソドックスな」シナリオが書いてある筈である。自身でそういうシナリオを書ける KP(GM) なら良いが、特に『新クトゥルフ神話 TRPG』においては裾野が広すぎてそういった人間はまずいないと思った方が無難である。

「サンプルシナリオなんてもうみんなやってるからやってない人間がみつからない」なんて言い分けは通用しない。「既プレイのシナリオを『知らないふりをして』プレイする」ぐらい初心者対応としては当然すぎるぐらいの対応である。

おまけ

この記事とコンセプトがずれるが、最後にあなたが『新クトゥルフ神話 TRPG』を初めるにあたり最も警戒するべき人種について警告をしておく。

ルールブック未所持勢もそうだが、それ以上に「私達は旧版でいつもやってるから旧版の『クトゥルフ神話 TRPG』を買え」と新規参入者に堂々と言う人種だ。確かに新版の『新クトゥルフ神話 TRPG』が発売されたのは2019年と比較的最近で、いまだ旧版でプレイしている人間は多数存在する。

だが、版が上がったものは上がったのだ。上がった以上新規プレイヤーには新版の購入を勧めるべきだし、そもそも旧版でプレイしているのはただの「内輪の事情」であるからしてそれを新規参入者に強要するのは完全に身内よがりな考えであり、同時に出版社に対する最も不敬な行為である。今からスマブラを初めようとしている人間にゲームキューブ版 6 のスマブラを買わせようとしていると言った方がイメージは伝わりやすいか。

ともかく「これから」という人間に最新版ではなく旧版を買わせるというのは甚だ間違った行為であるし、それを強要するというのは新版に触らせる気も無いという事である。身内でやっている分には全くもって構わないが新規対応としてはありえない行為である事を覚えておいてほしい。


  1. シーン制なりサイクル制なり、あるいはダブルクロス系統の「プレイヤーがシーンに登場する頻度を調節するシステム」だったり、色々ある。 ↩︎

  2. あえて名前は出さないが、電子ロックに関しては公式シナリオですら運用の間違いが起こっているケースでもある。 ↩︎

  3. 「エモいシナリオ」の略である。 ↩︎

  4. 彼らは自身の作成したキャラクターを「うちの子」と称したり他人の作成したキャラクターの事を「よその子」と称したりするためついた名前である。 ↩︎

  5. 功利主義と義務論の対立を扱った倫理学上の問題である。暴走した列車の先に5人の人間がいる。あなたは途中の分岐点にいて方向を切り替える事がその先には1人の人間がいる。どちらを犠牲にするか。という問題である。 ↩︎

  6. Switchの前のスマブラってゲームキューブだよね?あってるよね? ↩︎